今年に入って、実習生による殺人事件が複数発生しています。
もちろん、来日外国人、とりわけ実習生が日本国内で事件を起こすのはごく稀で、殺人事件は日本人などによるものがほとんどです。
警察庁の統計では、2019年の殺人事件件数は945件で、このうち約95%にあたる897件が、来日外国人以外(日本人や永住者、特別永住者)によるものでした。

一方で、実習生による殺人事件がメディアで取り上げられているのも事実です。そして、実習生が事件を起こす背景には、実習生特有の事情もあります。それはどういったものなのか、ご紹介したいと思います。

共同生活

実習生の多くは、受入企業が準備した寮で共同生活をしています。
日本人の中には、10数万円の月給でも一人暮らしをする人もいますが、実習生(平均月収は15万6,900円)は「早く借金を返したい」、「家族に多く仕送りしたい」ということで、できる限り家賃を抑えようと共同生活を選びます。
家賃補助をしている受入企業も多く、中には個室を準備してくれる受入企業もありますが、そうでないところでは、同僚の実習生とは仕事中も帰ってからも同じ空間で過ごさなければなりません。
馬が合う同僚であればいいですが、ベトナム人同士、ミャンマー人同士であっても反りが合わないと、一度イヤな部分が目につくとそこばかり気になってストレスが溜まります。
共同生活であるため逃げ場がなく、ストレスが昂じて・・・ということが考えられます。

相談相手

実習生は来日当初、家族や親しい友達が日本にいません。ベトナム人同士、ミャンマー人同士で先輩や同僚と仲良くなれればいいですが、そうでないと面と向かって悩みを相談できる人がいないことになります。
そういうときに実習生をサポートするのも監理団体の役割ですが、どこまで親身になって相談を聴くかは、各監理団体の方針や担当者に大きく依存します。
実習生に協力的でない監理団体や担当者であれば、実習生が悩み・不満を心の中に募らせることになってしまいます。


実習生特有の事情として共同生活と相談相手を上げましたが、大前提として、ほとんどの実習生が3年(または5年)の実習をきちんと終えて母国に帰っています。
もちろん実習中に「同じ部屋の同僚が掃除をしない」など多少のトラブルはあったでしょうが、それだけで事件を起こそうという極端な考えを持つ実習生は普通はいません。
(日本人同士でも、多少のトラブルで刃傷沙汰に発展することはそうそうありません。日本人も実習生も同じです)

今後も、実習生が事件を起こしたという報道があるかもしれません。そのときに、「事件を起こした実習生が悪い」、「一人一部屋を用意しなかった会社が悪い」と決めつけるのではなく、「なぜ事件が起きてしまったのか」、「どんな現実的な対応ができたか」を考える参考にしてもらえればと思います。